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■ 麗 小説01 ■

2009.05.05 20:50 candy

『刑事物語』




2009/04/24 10:00am 南葛署:署長室




『若林君…本当に君は、海外に縁があるねぇ』

ジョークのつもりなのか、ハハハと笑う署長を
若林がチラ…と横目で見やる。
たかが地方の警察署長で、現場も良く知らない癖に…
と、心の中でひとりごちた。

『どうやら、そのようですね』

処世術、って奴か。
若林もつられて笑う振りをした。

『(うるせー!ハゲ!!)』

なんて言ったら今日にもクビだな、
などど考え、今度は本当に口元が緩む。



南葛署の署長室に、暖かな春の日差しが惜しげも無く降り注ぐ。
桜の季節も去り、ふとすれば初夏の風が吹きそうな、
そんな麗らかな朝。

南葛署捜査第一係係長である若林は、署内でも有名人である。
彼の部下は皆、個性が強く他の係ではうまく馴染めない者も多い。
そんな彼らをまとめ上げ、上手くに取り仕切っていた。

他の係では手を焼いた面々も、若林の元で働き出してからは
其々が素晴らしい功績を上げ、今では課に有る複数の係の中でも、
捜査第一係が検挙率トップだ。

実家は地元でも有名な資産家の息子、
以前は海外にも名を馳せる有名GKだったが
ある時からその名がふっつり消えた。
その事を知る者は少ない。

本当はキャリア組なのでは…などと噂が飛ぶが
若林に関しては謎が多く、ただその堂々とした風格、
仕事に関しての揺るぎない自信に多くの人望が集まっていた。


『失礼します』
署長室に茶を運んで来た婦警がチラチラと若林を盗み見る。

『ありがとう』

若林の一言に、婦警は頬を赤らめて足早に出て行った。



『いやあ、警視庁の知り知合いから直々に頼まれてねえ、
 フランス帰りの刑事なんて…務まるかはわからんが、
 とにかく君の係で預かって欲しいんだよ』


やれやれ。
直々に頼まれてご機嫌な訳なんた…
問題児は全て俺の所に、ですよね?
淹れたてのお茶を一口啜る。


『ま、試験期間として2週間、使ってみてくれ。
 これからGWに突入、大きな事件は無いかも知れんが
 この時期は何かと忙しくなるからな』

署長がでっぷりした腹を競り出して椅子に座り直す。

問題が無いと願ってる、の間違いだろ?
またも若林の心の中で茶化した声が木霊した。


コンコン…
署長の返事も待たずに勢い良くドアが開く。


ドアの向こうに…
大柄な男が立っていた。


『これはこれは…』

署長が慌てて立ち上がる。
若林も倣って立ち上がった。

『警視監!』


警視監がわざわざ連れて来るなんて…
どんな大物なんだよ...

キャリア崩れか? 面倒はごめんだぞ?


若林が小さく舌打ちした瞬間、一人の青年が現れた。


『岬太郎です』




2009/04/24 10:54am 南葛署:捜査第一係/係内




『なぁ、オイ聞いたかよ!』

勢い良く石崎が部屋に飛び込んだ。

『相変わらず騒々しいな、どうした?』

三杉が机の向こうで広げていた新聞から目を上げる。



捜査第一係の朝の風景。
今は特に大きな事件も無く、ほぼ全員が顔を揃えていた。

『今受付の美香ちゃんに聞いたら…なんと!!!』

もどかしそうに上着を脱ぎながら石崎が大きく間を取る。

『いいから早く言え』

堪り兼ねた日向が石崎の頭を軽くこづく。


『今日、新人が配属だろ?今さ、警視監が来てるって!』
『新人の付添に…警視監が???』

全員がキョトンとした顔をした。
たかが地方の署の新人配属に付添なんて…
まさに前代未聞である。

『やべッ…警視監、ここまで来るかな…』
『そのお菓子、しまっといた方がいいんじゃないか?』

ざわめきが起こり皆が慌てて動き出した途端、
ドアが静かに開いた。

『お前ら、何やってんだ?』

全員の動きが止まる。

『!なんだぁ…ボスか…良かった~』
『若林係長…大変です、今警視監が…』

若林が大きく笑った。

『なんだお前ら、それでバタバタしてたのか…
 警視監は署長室に居るよ、もうじき帰るハズだ』

室内の安堵の空気が流れる。

井沢が思い出した様に尋ねた。

『!今日来る新人に会いました???』

『ああ…会ったぞ、岬…入れ』


こんな時期外れに
警視監直々に付添われて配属になる。。。
しかもフランス帰り、さぞや屈強な人物か、
はたまたインテリなキャリア組か。。。

ごくん…と唾を飲み込む音が聞こえた。


若林に促されて颯爽と歩を進めた人物を
皆、唖然と眺めていた。



2009/04/24 10:37am 南葛署:2階




署長室から出て、廊下を歩きながら若林が岬を振り返る。

『岬巡査、質問していいか?』

若林に見つめられ、岬がちょっと身を固くする。

『はい、なんでしょう…』

『なんで、警視監が一緒に来たんだ?』

岬がうん?と考え込む。
ちょっと首を傾げた事でサラサラとその茶色い髪が流れた。
柔らかな日差しが跳ね返ってキラと小さな光を投げる。



若林の心が、チクと刺す何かを感じ取る。
初めての様な、どこか懐かしい様な…


『自分がフランスでお世話になっていた方が
 警視監と懇意で…それでだと思います』

ただの懇意だけじゃ警視監は来ないぜ、と思いつつ

『お前、キャリア組なのか?』

すかさずさぐりを入れてみる。

突然岬が笑顔を浮かべた。

『違います、係長。自分は全然…ノンキャリアです。
 自分は事情が有ってフランスでピエールと言う
 友人の家に身を寄せていました。
 友人の父親がフランスでも有数の権力者で、
 自分が日本に帰ると伝えた時にどうやら色々と
 便宜を図ってくれると約束していたのですが…』

岬が困った様な顔をした。

『それが意外と大事になってしまって…
 自分でも思っていなかった事なので、正直とまどってます』

真っ直ぐに若林に笑いかける。
頬を撫でる風すらも、柔らかく感じた。


まただ…
若林の心に何かが落ちる。

何故か目の前の青年と居ると心が和むのが分かる。
大きな茶色の目で。
柔らかそうな髪で。
華奢なのに、芯の強そうな体で。

さっきから感じる、
不思議な感覚だった。

自分の心は、あの日
 死んだと思っていたのに


『係長?』

気がつくと、岬の手が腕に触れていた。

『係長大丈夫ですか?』

ああ、また…  思いの淵に落ちてたのか?
慌ててスーツの襟を正す。

『すまん、大丈夫だ』

岬がちょっと心配そうな顔で若林を見上げる。

『きっと、お疲れなんですよ』


何故だか自身でも分からずに、若林は小さく笑った。
久々に感じる、人と触れ合うのが嬉しい感覚。
大きく息を吸った。


『いいか、俺は厳しいぞ』

岬がきりっと顔を引き締めた。

『はい、宜しくお願いします!』



2009/04/24 11:08am 南葛署:捜査第一係/係内



警視監が部屋に来ないと分かった瞬間から空気が一変した。
全員が新しい仲間を歓迎する様に岬を取り巻く。
若林が其々に引き合わせて行く。

『こっちが三杉警部補と大空警部補。
 で、こっちが松山、日向、若島津…共に巡査部長。
 この4人は左から滝、来生、井沢、そして石崎。
 今は居ないが後、浦部、葵、新田、沢田が巡査になる…
 計14名、岬で15人の係だ』

『よろしく』
『よろしく~!!!』
『宜しくな、岬刑事』
『君、フランス帰りなんだって?凄いね』
『この町初めてだろ、何でも聞いてくれよ』
『寮の部屋、隣り同士だって、よろしく』

みんながそれぞれ挨拶を交わし、
岬が笑顔で一人一人に『宜しくお願いします』と応えて行く。
そんな姿にいつに無く若林にも笑顔が浮かんだ。


2週間に渡る、岬巡査の試験期間が始まった。



2009/05/03 02:22pm 南葛署:捜査第一係/係内



『で、どうだ、岬巡査の様子は』

その日は生憎の空模様だったが、近くで強盗事件が発生した為
部屋の中には若林と三杉しか居なかった。

三杉がノートパソコンから目を上げる。
この係には事務員的な人物がいない。
殆どの事務的処理は三杉がこなしており、
その能力の高さゆえ他の人物が絡むと逆に足手纏いとなるからだ。

『まだ数日ですが、すっかり皆とも馴染んでます』

『そうか…で、彼の仕事振りは?』

『真面目で勤勉、礼儀正しく品行方正…
 人の話も良く聞くし、誰にでも親切。
 その癖、やり通す強さも持ち合わせてますよ。
 今やウチの係の癒しのアイドル、誰もが組みたがってます』

三杉の指が目にも止まらぬ速さでキーを叩く。

『報告書は誤字も無く理路整然…気になりますか?』

『え?』

三杉がやおら立ち上がる。
近くのプリンターが低く唸った。


『係長、最近良く笑うから…』

『俺が?』

三杉が出てきた書類を揃え、
キョトンとした若林の前に差し出す。

『これ、読んでここと…ここにに署名を…
 そうですよ、よく笑ってます』

そう言う三杉が楽しそうに笑っている。

『馬鹿言え!』

手渡された書類を受け取りながらぼんやり考えた。


いつも、俺の部署は
他では馴染めなかった刑事が集まって
みんな真剣だが笑いが有った

石崎がふざけて何か言う、
みんながそれになんだ、かんだと突っ込んで


ここ最近、岬が加わった



三杉は大学出にも関わらずキャリアへ進まなかった
こんなに優秀なのに、何故かは分からないが
俺の下に残り、俺の右腕として動いてくれている

日向は喧嘩っぱやいが熱く真剣に事件に取り組む
コンビの若島津が軌道修正する事も度々だが
奴の勘の鋭さや取り調べでの自供させる数は他に類を見ない

大空…いつも明るくみんなを和ませるが
一度こう、と決めたら必ずやり通す…
その真剣さは誰にも負ける事が無い

松山も、石崎も、粘り強くもの事に取り組む
早期解決を見なかった事件をこの2人がよく解決する

他の皆も、そうか

俺の下には他の部署で馴染めなかった刑事じゃなくて
他の部署では類をみない優秀な部下が揃っているんだな

そんな風に、考えた事
今まで一度も無かった


そして
誰も彼もが岬に関わりたいと望んでいて

スタンドプレーの多い翼でさえも
岬とは巧くコミュニケーションを図って

そうだ、最近はいつも…
岬がみんなの間で何かと


誰も彼もが岬に関わりたいと望んでいて


そうか、皆、笑っているかも…な



『ほら』

三杉の声にハッとなる。

『なんだ?』

『係長、今も笑ってましたよ』


岬だ
岬が来たあの日
何故か心が和んだ気がした


『岬巡査は余り過去を語らないから分からないのですが、
 皆に取って重要な人物になって来ているのは確かです…
 岬巡査の試験期間、あと5日ですね』

『ああ…』

若林が受け取った書類にサインし、捺印する。

『もう、お決めになったんですか?』


あの日、岬を見て心が和んだ気がした
いつも笑ってるって?


俺が?


『それだけ優秀ならどこでもやれるさ』


三杉が驚いて若林に顔を向ける。

『係長…自分はてっきり…』


春の雨が、強くしなやかに窓を叩く。
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