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■ 麗 小説01 ■

2009.05.05 20:50 candy

『刑事物語』




2009/04/24 10:00am 南葛署:署長室




『若林君…本当に君は、海外に縁があるねぇ』

ジョークのつもりなのか、ハハハと笑う署長を
若林がチラ…と横目で見やる。
たかが地方の警察署長で、現場も良く知らない癖に…
と、心の中でひとりごちた。

『どうやら、そのようですね』

処世術、って奴か。
若林もつられて笑う振りをした。

『(うるせー!ハゲ!!)』

なんて言ったら今日にもクビだな、
などど考え、今度は本当に口元が緩む。



南葛署の署長室に、暖かな春の日差しが惜しげも無く降り注ぐ。
桜の季節も去り、ふとすれば初夏の風が吹きそうな、
そんな麗らかな朝。

南葛署捜査第一係係長である若林は、署内でも有名人である。
彼の部下は皆、個性が強く他の係ではうまく馴染めない者も多い。
そんな彼らをまとめ上げ、上手くに取り仕切っていた。

他の係では手を焼いた面々も、若林の元で働き出してからは
其々が素晴らしい功績を上げ、今では課に有る複数の係の中でも、
捜査第一係が検挙率トップだ。

実家は地元でも有名な資産家の息子、
以前は海外にも名を馳せる有名GKだったが
ある時からその名がふっつり消えた。
その事を知る者は少ない。

本当はキャリア組なのでは…などと噂が飛ぶが
若林に関しては謎が多く、ただその堂々とした風格、
仕事に関しての揺るぎない自信に多くの人望が集まっていた。


『失礼します』
署長室に茶を運んで来た婦警がチラチラと若林を盗み見る。

『ありがとう』

若林の一言に、婦警は頬を赤らめて足早に出て行った。



『いやあ、警視庁の知り知合いから直々に頼まれてねえ、
 フランス帰りの刑事なんて…務まるかはわからんが、
 とにかく君の係で預かって欲しいんだよ』


やれやれ。
直々に頼まれてご機嫌な訳なんた…
問題児は全て俺の所に、ですよね?
淹れたてのお茶を一口啜る。


『ま、試験期間として2週間、使ってみてくれ。
 これからGWに突入、大きな事件は無いかも知れんが
 この時期は何かと忙しくなるからな』

署長がでっぷりした腹を競り出して椅子に座り直す。

問題が無いと願ってる、の間違いだろ?
またも若林の心の中で茶化した声が木霊した。


コンコン…
署長の返事も待たずに勢い良くドアが開く。


ドアの向こうに…
大柄な男が立っていた。


『これはこれは…』

署長が慌てて立ち上がる。
若林も倣って立ち上がった。

『警視監!』


警視監がわざわざ連れて来るなんて…
どんな大物なんだよ...

キャリア崩れか? 面倒はごめんだぞ?


若林が小さく舌打ちした瞬間、一人の青年が現れた。


『岬太郎です』




2009/04/24 10:54am 南葛署:捜査第一係/係内




『なぁ、オイ聞いたかよ!』

勢い良く石崎が部屋に飛び込んだ。

『相変わらず騒々しいな、どうした?』

三杉が机の向こうで広げていた新聞から目を上げる。



捜査第一係の朝の風景。
今は特に大きな事件も無く、ほぼ全員が顔を揃えていた。

『今受付の美香ちゃんに聞いたら…なんと!!!』

もどかしそうに上着を脱ぎながら石崎が大きく間を取る。

『いいから早く言え』

堪り兼ねた日向が石崎の頭を軽くこづく。


『今日、新人が配属だろ?今さ、警視監が来てるって!』
『新人の付添に…警視監が???』

全員がキョトンとした顔をした。
たかが地方の署の新人配属に付添なんて…
まさに前代未聞である。

『やべッ…警視監、ここまで来るかな…』
『そのお菓子、しまっといた方がいいんじゃないか?』

ざわめきが起こり皆が慌てて動き出した途端、
ドアが静かに開いた。

『お前ら、何やってんだ?』

全員の動きが止まる。

『!なんだぁ…ボスか…良かった~』
『若林係長…大変です、今警視監が…』

若林が大きく笑った。

『なんだお前ら、それでバタバタしてたのか…
 警視監は署長室に居るよ、もうじき帰るハズだ』

室内の安堵の空気が流れる。

井沢が思い出した様に尋ねた。

『!今日来る新人に会いました???』

『ああ…会ったぞ、岬…入れ』


こんな時期外れに
警視監直々に付添われて配属になる。。。
しかもフランス帰り、さぞや屈強な人物か、
はたまたインテリなキャリア組か。。。

ごくん…と唾を飲み込む音が聞こえた。


若林に促されて颯爽と歩を進めた人物を
皆、唖然と眺めていた。



2009/04/24 10:37am 南葛署:2階




署長室から出て、廊下を歩きながら若林が岬を振り返る。

『岬巡査、質問していいか?』

若林に見つめられ、岬がちょっと身を固くする。

『はい、なんでしょう…』

『なんで、警視監が一緒に来たんだ?』

岬がうん?と考え込む。
ちょっと首を傾げた事でサラサラとその茶色い髪が流れた。
柔らかな日差しが跳ね返ってキラと小さな光を投げる。



若林の心が、チクと刺す何かを感じ取る。
初めての様な、どこか懐かしい様な…


『自分がフランスでお世話になっていた方が
 警視監と懇意で…それでだと思います』

ただの懇意だけじゃ警視監は来ないぜ、と思いつつ

『お前、キャリア組なのか?』

すかさずさぐりを入れてみる。

突然岬が笑顔を浮かべた。

『違います、係長。自分は全然…ノンキャリアです。
 自分は事情が有ってフランスでピエールと言う
 友人の家に身を寄せていました。
 友人の父親がフランスでも有数の権力者で、
 自分が日本に帰ると伝えた時にどうやら色々と
 便宜を図ってくれると約束していたのですが…』

岬が困った様な顔をした。

『それが意外と大事になってしまって…
 自分でも思っていなかった事なので、正直とまどってます』

真っ直ぐに若林に笑いかける。
頬を撫でる風すらも、柔らかく感じた。


まただ…
若林の心に何かが落ちる。

何故か目の前の青年と居ると心が和むのが分かる。
大きな茶色の目で。
柔らかそうな髪で。
華奢なのに、芯の強そうな体で。

さっきから感じる、
不思議な感覚だった。

自分の心は、あの日
 死んだと思っていたのに


『係長?』

気がつくと、岬の手が腕に触れていた。

『係長大丈夫ですか?』

ああ、また…  思いの淵に落ちてたのか?
慌ててスーツの襟を正す。

『すまん、大丈夫だ』

岬がちょっと心配そうな顔で若林を見上げる。

『きっと、お疲れなんですよ』


何故だか自身でも分からずに、若林は小さく笑った。
久々に感じる、人と触れ合うのが嬉しい感覚。
大きく息を吸った。


『いいか、俺は厳しいぞ』

岬がきりっと顔を引き締めた。

『はい、宜しくお願いします!』



2009/04/24 11:08am 南葛署:捜査第一係/係内



警視監が部屋に来ないと分かった瞬間から空気が一変した。
全員が新しい仲間を歓迎する様に岬を取り巻く。
若林が其々に引き合わせて行く。

『こっちが三杉警部補と大空警部補。
 で、こっちが松山、日向、若島津…共に巡査部長。
 この4人は左から滝、来生、井沢、そして石崎。
 今は居ないが後、浦部、葵、新田、沢田が巡査になる…
 計14名、岬で15人の係だ』

『よろしく』
『よろしく~!!!』
『宜しくな、岬刑事』
『君、フランス帰りなんだって?凄いね』
『この町初めてだろ、何でも聞いてくれよ』
『寮の部屋、隣り同士だって、よろしく』

みんながそれぞれ挨拶を交わし、
岬が笑顔で一人一人に『宜しくお願いします』と応えて行く。
そんな姿にいつに無く若林にも笑顔が浮かんだ。


2週間に渡る、岬巡査の試験期間が始まった。



2009/05/03 02:22pm 南葛署:捜査第一係/係内



『で、どうだ、岬巡査の様子は』

その日は生憎の空模様だったが、近くで強盗事件が発生した為
部屋の中には若林と三杉しか居なかった。

三杉がノートパソコンから目を上げる。
この係には事務員的な人物がいない。
殆どの事務的処理は三杉がこなしており、
その能力の高さゆえ他の人物が絡むと逆に足手纏いとなるからだ。

『まだ数日ですが、すっかり皆とも馴染んでます』

『そうか…で、彼の仕事振りは?』

『真面目で勤勉、礼儀正しく品行方正…
 人の話も良く聞くし、誰にでも親切。
 その癖、やり通す強さも持ち合わせてますよ。
 今やウチの係の癒しのアイドル、誰もが組みたがってます』

三杉の指が目にも止まらぬ速さでキーを叩く。

『報告書は誤字も無く理路整然…気になりますか?』

『え?』

三杉がやおら立ち上がる。
近くのプリンターが低く唸った。


『係長、最近良く笑うから…』

『俺が?』

三杉が出てきた書類を揃え、
キョトンとした若林の前に差し出す。

『これ、読んでここと…ここにに署名を…
 そうですよ、よく笑ってます』

そう言う三杉が楽しそうに笑っている。

『馬鹿言え!』

手渡された書類を受け取りながらぼんやり考えた。


いつも、俺の部署は
他では馴染めなかった刑事が集まって
みんな真剣だが笑いが有った

石崎がふざけて何か言う、
みんながそれになんだ、かんだと突っ込んで


ここ最近、岬が加わった



三杉は大学出にも関わらずキャリアへ進まなかった
こんなに優秀なのに、何故かは分からないが
俺の下に残り、俺の右腕として動いてくれている

日向は喧嘩っぱやいが熱く真剣に事件に取り組む
コンビの若島津が軌道修正する事も度々だが
奴の勘の鋭さや取り調べでの自供させる数は他に類を見ない

大空…いつも明るくみんなを和ませるが
一度こう、と決めたら必ずやり通す…
その真剣さは誰にも負ける事が無い

松山も、石崎も、粘り強くもの事に取り組む
早期解決を見なかった事件をこの2人がよく解決する

他の皆も、そうか

俺の下には他の部署で馴染めなかった刑事じゃなくて
他の部署では類をみない優秀な部下が揃っているんだな

そんな風に、考えた事
今まで一度も無かった


そして
誰も彼もが岬に関わりたいと望んでいて

スタンドプレーの多い翼でさえも
岬とは巧くコミュニケーションを図って

そうだ、最近はいつも…
岬がみんなの間で何かと


誰も彼もが岬に関わりたいと望んでいて


そうか、皆、笑っているかも…な



『ほら』

三杉の声にハッとなる。

『なんだ?』

『係長、今も笑ってましたよ』


岬だ
岬が来たあの日
何故か心が和んだ気がした


『岬巡査は余り過去を語らないから分からないのですが、
 皆に取って重要な人物になって来ているのは確かです…
 岬巡査の試験期間、あと5日ですね』

『ああ…』

若林が受け取った書類にサインし、捺印する。

『もう、お決めになったんですか?』


あの日、岬を見て心が和んだ気がした
いつも笑ってるって?


俺が?


『それだけ優秀ならどこでもやれるさ』


三杉が驚いて若林に顔を向ける。

『係長…自分はてっきり…』


春の雨が、強くしなやかに窓を叩く。
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■ 川澄ちょこ様 小説■

2009.05.05 19:10 candy

5月5日


Ⅰ.


「…ねぇ、石崎くん家は物置に、結局いくつ置いてあったの?」

「俺ん家は予想通りの2匹だった。……しかも5年近くずっと仕舞い込んでたから、埃だらけで穴も幾つか。…可愛い一人息子の鯉のぼりだっつーのに、ヒデぇよなぁ。」

「石崎くん家は菖蒲湯で毎年忙しいからしょうがないよ。…私の家はアツシがおじいちゃんから貰った真鯉と緋鯉と子鯉の、トータル3匹。…」

「おっ、あねごの家の鯉のぼりは、色が綺麗だなぁ。」

「うんうん、子鯉の青が爽やかですよ。」

「どうもありがと。……それにしてもこれで集まった鯉は、12匹になったわね。」

麗らかな5月の昼下がり、場所は地元の河川敷, 南葛小サッカー部+応援団の面々は全員で掻き集めた自宅の鯉のぼりを草むらに並べて、何故か思案顔だった。

「…うーん。…12匹って、ちょっと微妙よね?…足りるようで実は足りてないというか…」

「翼の提案は河の両端に高くロープを引いて、そこにズラーッと鯉をなびかせる,ってプランだもんなぁ。」

「この河 横幅が広いから、意外に12匹じゃ足りないですよね?」

「いやでもどこかの観光協会じゃあるまいし、俺たち小学生の精一杯はこんなもんじゃね?」

早苗+石崎+学の言葉に同意するように、その場にいた南葛小の全員が大きく頷いた、ちょうどその時だった。


「…何を湿っぽい顔して 俯いてるんだ, お前ら!?」

”―― …こんな担任の先生みたいな物言いをするヤツは、同級生で恐らくアイツしかいない”と河川敷にいた全員が声のする方角を見上げれば、案の定予想通りの人物がお供の修哲トリオを引き連れ、川べりの舗装路に立っていた。
脇には運転手付きロールスロイスまでもが控えている。

「…翼からの依頼通り, 若林家代々に伝わる鯉のぼりを、岬のために持参したぞ!!」

「…お、俺もそんなに立派じゃないけど、井沢家のを…。※これでお祝いに参加出来るなら, と思ってさ…?」

『”ス、スゲェ…!!!”』

漆黒で目元にラメ具が散りばめられた若林家鯉のぼり(オール黒真鯉)15匹の迫力に、その場にいた全員が圧倒されてしまった。
(※但し井沢家の鯉は至ってシンプルな、ごく一般家庭向けのものです。)


「わ、若林と井沢、通う学校が違うっていうのに、わざわざサンキューな・・・」

「何、他ならぬ南葛SCチームメイトの頼みだからな, 気にするな。」

「…き、気持ちはとーっても嬉しいけどよ?、若林…こんな高級な鯉のぼり、ホントにB級河川で吹流しにしてもいいのか?」

「12匹(南葛小ぶん)+15匹(若林家ぶん)+3匹(井沢家ぶん)の計30匹じゃ、却って横幅からはみ出るわよ…翼くんも家から5匹持ってくる,って、確か昨日言ってたし。」

あねごの冷静な突っ込みすら歯牙にかけず、若林はジャイアニズム全開で微笑む。

「横幅からはみ出るかも,っていうなら、対処は至って簡単だろ?…若林家にはまだ鯉のぼりのストックはある。二列配置の吹流しにすれば良いだけの話じゃないか?」

「…………。」

さも簡単なことのように胸を張って笑う若林の姿に、南葛小メンバは生まれつきの"格差社会"を噛み締めたのだった。――


*****

Ⅱ.


「ねぇ石崎くん、知ってる!? こどもの日の5月5日は、岬くんの誕生日なんだよ!」

そもそもの話の始まりは3日前、突然過ぎる翼からの提案だった。

「だから子どもの日はサッカー部みんなで鯉のぼりを集めて、岬くんのお祝いをしようよ?、ね!?」

「…………」

翼の前触れないノリには慣れっこのはずの石崎だが、翼が言わんとする事柄の主語は, その時ばかりはどうしても分からなかった。

「…翼ゴメンね、結局何がしたいのか, もっと分かりやすく教えてくれないかな…?」

「あぁうん,そうだね、あのねぇ、このあいだ岬くんと, 五月人形のお店の前を通った時だけど―― …」


いつも通り サッカーボールでドリブルしながら通学路を通り過ぎた、岬と一緒の帰り道。
岬がふと足を停め、珍しく「翼くんちょっと待って!」と眼を輝かせてショーウィンドウを見つめていたので、何事かと翼も見入れば そこは五月人形の有名専門店・『風月』のディスプレイだった。
立派な五月人形と、黒・赤・青の三匹並びの鯉のぼりが、センスよく上品に飾られている。

「…ひょっとして岬くんは、鯉のぼりが好きなの?」

ディスプレイを見つめる瞳がキラキラと楽しそうで、翼は思わずディスプレイの中身丸ごと 隣に佇む可憐な少年に、プレゼントしてあげたくなった。

「…ううん、特別好き, って訳じゃないけど。―― …僕の誕生日って、ちょうど子どもの日なんだよ。」

「子どもの日ってことは、5月5日…?…岬くん、もう来週がお誕生日なんだね!」

「そう。―― …だから僕がまだうんと小さい頃、"加藤くん家みたいに大きな鯉のぼりが欲しい!"って駄々をこねて、一度だけ父さんを困らせたことがあって。」

度重なる転校の連続では、大きな鯉のぼりを買うこと自体 岬親子の荷物の負担にしかならない。
大きくなった現在の岬は父親に尋ねるまでもなく、聞き分け良くそのことを理解していた。

「―― …今の僕が鯉のぼりを見たら、『今夜のおかずは刺身にしようかな?』ぐらいしか思わないんだけどね。…僕の持てる荷物は(中)リュックサック1個ぶんって、何となく昔から決まってるし。」

両手で中リュックの大きさを形取り, まるで今日の天気の話でもするみたいに優しく、岬は当たり前に微笑んでいた。


*****


「…その時俺 何でか分からないけど、無性に"日本中の鯉のぼりを集めて、岬くんにプレゼントしたい!"って思ったんだ。―― …俺のこの気持ち、ちょっとおかしいかな?」

「"何でか分からないけど," じゃねぇよ、翼!……その時傍にいたのが俺でも間違いなく風月の親父に、『ディスプレイを丸ごと岬にください!!』って、直談判するに違いないね。」

基本 人の好い石崎少年は 一連の翼の話を聞いて、小さく"ずずっ"と鼻をすすった。

「…だからね石崎くん?, 俺は思ったんだ。―― …日本中の鯉のぼりを集めるのは流石に無理でも、南葛市一部の鯉のぼりなら、ひょっとしていけるんじゃないか?…って。」

「へ?…南葛市 一部の鯉のぼり……?」

「よく観光地とかで鯉のぼりの吹流しを見るだろう?…あれを南葛市の河川敷でやれば、岬くんぜったい喜んでくれると思うんだよ!!」

「あ、あのね翼くん, いつだって言うは易しだけど、実行するのは難しい……」

「石崎くんも勿論、協力してくれるよね!!?」

「…………。」


―― …そんな感じの翼&石崎の会話に割り込むように、「なになに、何の話?」とハートマークを飛ばしつつ登場したあねごも加わり, 今日の南葛小サッカー部+応援団の一大プロジェクトと相成ったのだが。――


石崎家から引き摺り出した穴だらけの鯉のぼりを 河川敷で広げながらふと、石崎 了は考え込んでしまう。

『…ひょっとしたら"たくさん持ってるかも?"と予想して 声を掛けた若林が、まさかここまで協力してくれるとは。…一体どういう風の吹き回しだろう?……4月1日の俺の誕生日には絶対、あり得ない光景だよなぁ。』

それでも何となくだが自然に、石崎には分かるのだ。

誰だってごく当たり前に、岬には何かしてあげたくなる。―― …損得抜きで彼の微笑った顔が、純粋に見たくなるのだ。

「…ねぇねぇ、鯉のぼりを吊るすロープは, このタコ糸だけで大丈夫かしら?」

「駄目だ駄目だ、俺が持参した鯉のぼり専用縄と, 固定するためのスチール棒を使わないと―― …」

腕捲りした若林が早速 スチール棒を固定するための穴をスコップで地面に掘りかけた, ちょうどその瞬間だった。

「みんなーーー!!ごめん, お待たせ!!」

「―― …あっ、翼くんが来たわ!!おーーい、翼くーーーん!v こっちよ! 皆のおかげでたっくさん, 素敵な鯉のぼりが集まったのよ!!」

聞き慣れた黄色いあねごの声が飛ぶ方角に全員が視線を移せば、遠くから大急ぎで駆け寄って来る, 今回のイベント発起人の姿が見えた。

「…ごめんね、"この人"と"あるもの"を作るのに、ちょっと手間取っちゃって!!」

息を切らせて紙袋(大空家の鯉のぼり5匹入り)を石崎に差し出してくる翼の遥か後方にはもう一人、"ある人物"が緩やかな足取りで, 少年少女たちが集う場へと近付いてくる。

「・・・!―― …あなたは。」

逆光に紛れて 少しずつ全貌を現したその人物の正体に、少しだけ意外だ, とでも言いたげに、若林のアルトの声が小さく響いた。


*****


Ⅲ.


「…さぁ 岬くん、一歩ずつでいいから。……ゆっくり前に進んで?―― …」

「一歩ずつ, っていっても翼くん。―― …これじゃ前が全然見えないから、かなーり僕は歩き辛いよ?」

「俺が後ろに控えてるから、ぜったいだいじょぶ!……岬くんは何も心配しないで, ね?」

「―― ……。」


そんなこんなの準備も終わって、日付は早くも5月5日当日。
まるで岬の誕生日を祝福するかのように、GW始まって以来の晴天が穏やかに明るく, 富士の麓の南葛を照らしている。

尤も頭上に拡がる晴天も太陽も黒い布に遮られてしまって、現在の岬にはうっすらとしか見えないのだが―― …

『…いつも通りの翼くんの、可愛い悪戯だとは思うけど・・・』

今日から遡ること12年前にこの世に生を受けた岬は、AM10:00頃 突然自宅アパートに現れた翼に眼の周辺を黒い布で覆われ、理由も告げられずそのまま外へ連れ出されたのだった。

『―― …鍵を掛ける余地だけはかろうじて貰えたから、泥棒に入られる心配は無いと思うけど・・・』

"太郎, 今日もいつもの河川敷で、富士を描いてくるからな。"

そう言っていつも通り早朝に家を出た、父親の背中が脳裏を過る。
岬の中の父のイメージは昔から、何故か後姿の印象が強かった。

『…父さん今日も昼頃には帰る,って言ってたから、お昼ごはんは焼きソバで良いよね?……2人じゃ使い切れないキャベツが冷蔵庫に、まだたくさん残ってるし。』

実刑に臨む死刑囚のような姿で翼に引き摺られながらも岬は何故かお昼ご飯の焼きソバについて真剣に、ぐるぐると思いを巡らせていた。


「・・・よっし、到着!!…長い間ごめんね岬くん, もう布を外して良いよ?」

傍らの翼の声に促されるようにして, 岬は自身の双眼に覆われた黒布を、"パラリ"と簡単な仕草で解いた。

「・・・光に慣れてきたら ゆっくりで良いから、今立ってる橋の下を見てみて……?」

そう翼に告げられても、ずっと黒布に覆われていた岬の瞳はなかなか, 足許に拡がる街並みを捉えることが出来ない。―― …
それでも少しずつ 頭上の光に慣らされるように, 眼下の視界が拡がりゆく―――

「―― …!!―― …翼くん、あれは―― …!!」

河川敷上の橋に立たされている現在の自分のポジションにようやく気付いた岬は、その麓に拡がる美しい光景に, 続けるべき言葉を無くしてしまった。

黒・赤・青、緑、オレンジ、色とりどりの 真鯉・緋鯉・子鯉。―― …2列になって河を跨いだ中央にたなびくそれらは"皐幟"と呼ぶに相応しい、堂々とした風貌を醸している。
その数おおよそ50程度だろうか…?……岬がこれまで見たことも無い、大規模な吹流しが南葛河の中央一帯に拡がっていた。

「俺たち全員から心をこめて、岬くんにプレゼントだよ!」

「―――― …」

「……あの一列を陣取ってる黒い鯉のぼりは、みんな若林くんから。…さすが若林くんだよね?…"チームメイトのためなら何匹でも鯉を用意する!"なーんて言ってさ?……尤も たくさん並べるとヤクザ鯉の集会みたいになるから、30匹で我慢して貰ったんだ。」

「……………。」

「もう一列に繋いだ綺麗なスカイブルーの子鯉は、あねごの弟さんの。……緑とオレンジの鯉は、井沢くんから。―― …右から二番目の青色のやつは、石崎くん家の。―― …それから岬くん、右端の真っ赤な真鯉は, 一体誰からか分かる?・・・」

半ば"分からなくても無理ないけど,"と言いたげな翼の視線を意識しながらゆっくりと、岬は紡ぐべき答を恐る恐る, 吐き出した。

「―― …もちろん、分かるよ。…小さい頃 僕が持ってた鯉のぼりが、普通サイズに大きくなっただけだもの。」

「―――― ………!」

一目で右端の鯉の作者を言い当てた岬に 驚いた翼は思わず、漆黒の瞳を見開いてしまった。


*****


~~時は約一週間前、五月人形『風月』店舗前の場面に遡ります~~


『―― …今の僕が鯉のぼりを見たら、"今夜のおかずは刺身にしようかな?"ぐらいしか思わないんだけどね。…僕の持てる荷物は(中)リュックサック1個ぶんって、何となく昔から決まってるし。』

…余りにも環境が違う岬の物言いに, まだ小学生の翼は返すべき台詞が全く浮かばなかった。―― …そんな翼の心を見透かしたように、岬は伸びやかに, けれども落ち着いた調子で、優しく言葉を続ける。

『・・・だけどね翼くん?、"加藤くん家みたいな鯉のぼりが欲しい!"って駄々をこねた当時の僕に、父さんは後からちゃあんと, 鯉のぼりをくれたんだよ。』

『…えっ…?…岬くんのお父さん、結局本物の鯉のぼりを, 岬くんにくれたの?』

『うん。父さんから貰ったのは、片手で持てる旗みたいな小さい鯉のぼりだったけど, どんな店で買うものより、僕は嬉しかった。―― …世界にたった1つしかない、僕だけの鯉のぼりだから。』

『…………?』

『…当時の父さんはね?…余った赤い絵の具で画用紙に真鯉を描いて切り抜いて, 僕にプレゼントしてくれたんだよ。―― …あんなに嬉しい贈り物は初めてだった。…だから僕は絶対、一生忘れない。 』

『…岬くんはお父さんのことが、本当に好きなんだね?』

『うんっ、大好き!!!』


*****


…あの笑顔を間近で見たからこそ翼は、何としても岬の父にお願いして, 今回の鯉のぼりイベントに参加して欲しかった。
だからこそいつものように河川敷で富士を描く父親を説き伏せて、一旦大空家まで同行頂き, 庭に一面大きな布(昔の白カーテンの再利用)を広げて 真紅の鯉のぼりを筆力いっぱい, 昔岬にプレゼントした数倍の大きさで描いて貰ったのだ。
 画の完成後は奈津子ママによる華麗なミシン作業により、岬父の描いた鯉は素晴らしい出来栄えの真鯉となり, 空をたなびく鯉のぼりの群れへと仲間入りを果たした。

『―― …やっぱり、適わないよなぁ。』

まさか一目で岬に言い当てられるとは思わなかった。自分達ゴールデンコンビの絆を持ってしても尚、岬親子の絆には到底, 適わない気がする。

「・・・って言ってもあの赤い真鯉, 一匹だけ明らかに手描きだから、僕じゃなくても正体は誰でも分かると思うよ?きっと。―― …」

うっすら涙を浮かべた自身の表情を慌てて誤魔化すように、岬は彼にしては珍しい満面の笑みで, にっこりと翼に微笑みかけた。

「―― …お父さんに描いて貰うのが 結局一番、岬くんが喜ぶと思ったんだよ。」

張り切って準備してくれた若林くん達には悪いけれど、どうやら翼の読みはドンピシャ, 大正解だったらしい。

「…ホントにありがと、翼くん。―― …それから一緒に準備してくれた, 南葛の皆も。」

囁いた岬はすぐさま眼下の河川敷に集まった面々に視線を移し, 大きく両手を振りながら、高らかに叫んだ。


「―― …ありがとう、みんな!!―― …こんなに驚いた誕生日は、生まれて初めてだよ!!!」


その言葉に応えるように眼下の仲間たちも皆口々に, 思い思いの言葉を叫ぶ。

「岬っ、どういたしましてーー!」

「岬ィ、突然翼に連れ去られてびっくりしたろ!?」

「俺達も、こんなに自分ちの鯉のぼりが生き生きとなびいてるの、初めて見たよ!!」

「今日はホントにやって良かったーーー!発起人の翼、どうもありがとな!!」

―― …それから全員で声を揃えて,

『 "岬っっ、ハッピーバースデーーー!!!!!♪" 』


その言葉に合わせて 修哲トリオが河の両端から、色鮮やかな凧を天空に向けて高く掲げる。

赤と青の美しい凧が河川敷に舞い上がる瞬間、岬は眼下の仲間内に彼の父親が紛れている姿を、はっきりと観停めることが出来た。

「・・・とうさん。…今日はいつも通り"富士山のスケッチをする,"って言ってたのに。―― …」

いつもと変わらない風に見えた今朝の父の後姿が、実はサプライズを隠すことで必死だったことを想像して, 思わず岬は破顔してしまう。

早く父さんの許に駆け寄って、直接伝えたい。『今年も手作りの鯉のぼりをありがとう』って。


「…さぁ、下で皆が待ってるよ?……そろそろ河川敷まで降りよう?―― …岬くん。」

差し伸べられた翼の手を取り, 岬は軽やかな足取りで一歩ずつ、眼下の河川敷へと歩みを進める。

「…俺さ、ホントはずっと岬くんのお父さんのこと, 『少し怖い』って思ってたんだ。―― …」

「えっ?……そうだったの、翼くん?」

「うん、実はそうだったの。……だけど今回のことで、俺にもはっきり分かったよ。」

岬の掌を強く握り締めながら翼は、彼の耳許へ内緒話するみたいに, けれども力強く囁いた。

「―― …今回のことで岬くんのお父さんが誰より、岬くんのことを大事にしてる,ってことがよく分かった。―― …ねぇ岬くん、岬くんのお父さんは本当に、優しくて温かくて, 素敵なお父さんだね!!」



END


■ 皇チガヤ様小説 ■

2009.04.26 01:54 candy

5月5日のとある朝、
ここは、パリの岬の家。

窓の外、まだ街が明るくなっていない中、
ベッドで岬が目を覚ますと、
なんと、そこには1人の青年が眠っていた。

「翼くん!?」

そう本来、
スペインに居る筈の大空翼が
岬の部屋にその上裸で寝ているのだ。
そんな訳でベッドから降りて着替える事にした。
それにしても、何年振りだろうか・・・久々に見る翼の身体・・・、
岬のそれとは比較にならないくらい、
大きく逞しくなっていた。
そんな事を思っていると・・・、

「岬く~ん、お早う・・・」
「お早うじゃないっ!翼くん、一体どうやってボクん家に来たのさ!?」
「だって、今日岬くんの誕生日だろ?それに丁度オフの日が重なったから
君に逢いに来たんだ・・・」
「えっ・・・?」

そう言う岬に翼が何処から持ってきたか知らないが、
水色と白のチェック柄の包装紙にブルーのリボンが掛けられた物を渡した。

「これって・・・」

岬は思わず驚いたが・・・。

「これ、開けていいの?」
「ああ・・・開けていいよ?」

そう、翼が言うと岬は袋を開ける。
その中には白くて可愛い子犬のぬいぐるみが入っていた。

「翼くん、これって・・・」
「そうだよ、これは俺からのプレゼント、誕生日おめでとう岬くん」

岬は翼からのプレゼントに思わず涙を流して・・・、

「ど・・・どうして泣いてるの?」
「ううん・・・違うの、嬉し涙なの・・・ありがとう、翼くん大好き!」

そう言っていきなり抱きついて来て翼の首に腕を回して来る
岬の背中に翼も腕を回して抱きしめた。

「俺も・・・岬くん、大好きだよ」

そう言った後、翼は岬の瞳からこぼれる涙を指で拭い、
そっとキスをした。
そして、岬もそれに応えるかの様に翼にキスをした。

・・・fin

■ しゃお様小説 ■

2009.04.26 01:53 candy

「ジャスミン」



君を好きになったのは もう ずっと前のこと
不思議なくらい飽きずに こうしてるよね


「………ん」
意識が浮上する。カーテン越しに日差しが入り込んでいた。
左側に温もりを感じ、そっと身体を向けると、愛しい恋人がまだ深い眠りの中にいた。
二人で迎える久しぶりの朝。
隣で眠る恋人の寝顔を見つめ、規則正しい寝息を近くに感じる
ただそれだけなのに、自分の心がとても穏やかになっていくのが分かる。
起こさないよう、恋人の髪と頬に触れ、その柔らかさ、暖かさを手のひらでじっくり感じとる。
ふと、今の時間を知りたくて枕元に目をやると
恋人のケータイと、見覚えのある懐中時計が置かれていた。
『………それ、まだ使ってたのか』思わず笑みが零れていた。

恋なんて呼ぶには もう ちょっと照れるじゃない
言葉なんてさ とっくに飛び越えてるし


それは、10年ほど前、岬の誕生日にとドイツから贈ったプレゼント。
ハンブルグの時計屋で見つけた時、一目で気に入って即購入したんだよな。
岬に似合うだろうって思って………。
その頃は、岬はもう日本に帰国してたから、直接渡すことは叶わなかったけれど、
それでも、喜んで欲しくて、笑っていて欲しくて………。
いつか、ずっと一緒に笑いあえる日が来ればいいと願って………贈ったプレゼント。
あれからもう10年が過ぎている。さすがにキズもいくつかある。
だけど、それを使ってくれていることが何よりも嬉しかった。



「………おはよ」
岬の使用している懐中時計を手に取り眺めていたら、岬が目を覚ましたようだ。
「おはよう、岬。これ、使ってくれてたんだな。気付かなかったよ」
「………うん。毎日使ってたんだけど、大分キズがついちゃったね……。
これでも大事に扱ってたんだけどなあ……。本当にごめん」
「いや、それは使ってくれてる証拠だろ?俺、プレゼントして良かったって思ったよ。
それに……そのキズのおかげでこいつ、かなり味わい深いモノになってると思うぞ」
岬が懐中時計に向けて伸ばした手が多少ふらついていたのでその手を取り、時計をしっかり握らせる。
岬は時計を受け取ると、それを見つめながら、キズを擦るように指でなぞっていた。
二人ともプロとして第一線で活躍してることもあり、互いの誕生日も一緒には過ごせないけれど、こうやってOFFを岬と一緒に過ごせることは何者にも変えがたい幸福感がある。

時々思うんだ 君が少しでも
僕のこの思いで 強くなれたなら


「10年………か」
「………ああ。でもすごくあっという間だった気がするな」
「うん。そうだね」
10年という歳月は、岬のいろんな面を知ることが出来た10年だったけれど、
それでも飽きることは無くて……。
もっともっと岬のことを知りたくて。
もっともっと岬の力になりたくて。
もっともっとたくさんの表情を見せて欲しくて。
それと同時に、そのすべてを受けとめられるような人間になりたいとも思うし、
人間としてもっともっと成長していきたいとも思わせてくれる。
そんな岬をとても愛おしく思うのだ。


「そろそろ起きなきゃ………かな?」
懐中時計を枕元に置き、起き上がろうとする岬。
「いや、もう少しだけ、こうしていようぜ」
岬の手を取り、少し強引に抱き寄せる。戸惑う岬に構うことなく、深く深く口付ける。
互いの唇が離れると、お互い見つめあい、笑った。

たったひとつ 僕ができることは
君を ずっと知り続けてくこと
元気 無邪気 弱気 吐息も 
残さずに In My Heart

いつまでも In My Heart
                


「ジャスミン」(A capella version)
Song by stardust revue




いいわけf(^^;)
今回は、このようなステキな企画に参加させていただき、本当にありがとうございました。
優しい二人を目指したかったのですが、何か違う方向に・・・(あれ?)
この曲「ジャスミン」のような二人の関係が私の憧れの源岬だったりしますので、この曲、是非是非おススメさせてくださいませ(趣味に走ってすみません)
あああああ、いろいろ謝らないといけない部分は多々あります。・・・本当にごめんなさい

えっと、岬くんへ「生日快楽!(中国語で「誕生日おめでとう」という意味)なのです」
いつまでも、カッコ可愛い君でいてください♪







■ しゅんな様小説 ■

2009.04.21 20:16 candy

「幸せの音」




参ったなぁ。
ずいぶんと降ってきやがった。
直ぐ止むと睨んだのが失敗だった。
駅からバスに乗った時よりも雨は激しくなっていた。
迎えよこしてもらうべきだったかな?
あるいはタクシーにすればよかったか・・・。

傘を持ってなく、バスから降り濡れながら歩いていると、
「若林く~ん?」
背後から聞き覚えのある声。
誰だかわかってる。岬だ。
声がしたほうに振り返る。

岬が走ってやってくる。
「やっぱり若林くんだ。日本に帰ってたんだ?」
そういって傘を俺に差し掛ける。

「ああ、今着いた」

「そうなんだ。びっくりしたよ。
 若林くんが濡れながら歩いてる?
 あれ?日本にいるわけないか?
  でもどう見ても若林くんだって思って。」

「両親が日本に一時帰国するんだ。
 で、家族みんなで日本の家で会おうってことになって」

そしてお互いの近況報告をしながら歩く。






ごつ。傘が俺の頭に当たる音。

「あ、ごめん」
見ると必死に手を伸ばして差し掛けてくれてた。

そっかこいつのほうが背が低いから・・・。
しかも、岬のやつほとんど傘に入ってないじゃないか。
びしょぬれになってる。

「貸せ」
俺は岬から傘を半ば強引に奪い取る。
そして岬に差し掛ける。
「で、お前はどこ行くんだ?」
「えっ、どこ?って・・・。
 若林くん送っていこうと思ってたんだけど」
そうか。ただ行き先が同じ方向だったわけじゃなかったのか。
岬が傘を俺のほうへ押し戻す。
「それじゃあ、若林くんが濡れちゃうよ」
「いや、俺はいい」
 
「じゃあ・・・。一緒にもとー。そうすれば傘、真ん中になるよ」
そう言って手を伸ばしてくる。
そして俺の握ってる柄の直ぐ下を握る。
 
「なんか相合傘みたいだね」
そう言ってにっこり笑顔の岬。



「俺と会う前はどこ行こうとしてた?」

「う~ん・・・。散歩」

「こんな雨ん中散歩だぁ?」
岬をじっと見つめる。
視線を逸らす岬。

「ほんとは練習しに・・・。
今日連休最後の日だから、高校の部活も雨だったら休みってことで、
休みになったんだけど、なんかさ家にいても暇で・・・」
「この雨の中自主トレか・・・」
「だってサッカーの試合雨でもあるでしょ」

ほんとはやり過ぎだって自分でも自覚してるな。
だからさっき視線逸らしたな。

「休める時は休んだほうがいいぞ」
「うん。そうだね。
 家をでたら雨凄くなってきて、帰ろうかなって思ってたとこ。
 でも、練習しようと出てきてよかったよ。
 若林くんに会えたから」

そう言って嬉しそうな顔をする。

俺もバスにして正解だったな。こんな偶然が待ってたんだから。




ぽつぽつ・・・。
傘に雨のあたる音を聞きながらしばらくの間無言で歩く。
傘は二人で持ったまま。
雨音って憂鬱な時もあるけど、今は違う。
二人で歩く道のりは短く感じた。





雨の中送ってもらって、びしょ濡れのまま帰すのは悪いよな。
いやそれよりも、もうちょっと話がしたかった。

「岬、あがってけ」
「う~んと、じゃあちょっとだけ」




上着をハンガーに掛ける。

「頭乾かしとけ」
岬を鏡の前に座らせる。
「いいよ。自分でやるよ」
ドライヤーを俺から奪い取ろうとする岬を遮る。
「いいから」
そう言ってドライヤーを当てる。
「う~。髪くらい自分でやるのにぃ」
岬の髪を指で梳く。
ほんとに柔らかいな。
この手触り、気持ちいい。

「もういいよ。乾いたよ」




そして紅茶とケーキが運ばれてきた。
「すごいね。ホテルのルームサービスみたいだね。
 若林くんの部屋もホテルみたいに広いし。
 この部屋だけでもうちのアパートより広いよね」


1人掛けのソファーが向かい合わせに置いてある。
真ん中にはテーブル。
そこにケーキと紅茶が載ってる。


「この紅茶ブランデー入ってるでしょ?」
「雨に濡れたからな。温まるぞ」

「うん。温まるよね。
 小学生の頃、雨に濡れて帰ると、たまたま父さん家に居て、
 紅茶にブランデー、ちょっと入れてくれたんだよね」

そう語りながら紅茶を啜る岬に、思わず見とれてしまった。

「このケーキは、若林家シェフの手作り?」

「明日の為にパテシエとかシェフ呼んだらしいぞ」

「そっか、プロのパテシエさんかぁ。
 プロじゃあレシピ教えてもらえないよね?」
とちょっぴり残念顔。

やっぱこいつは綺麗だ。


ふと棚に目をやる岬。
さっきから何かに視線を送っていたのは気付いていたんだが・・・。

立ち上がり棚に手を伸ばす。

「これなあに?」
そういって手に取る。

そうか。それが気になっていたのか。

裏返してみる。
「オルゴールだ・・・。鳴らしてみていい?」
「ああ」
ぜんまいを巻きテーブルの上に置く。

瀬戸物でできた男女。
女性はドレスを着ていて男性はタキシード。
その男女が踊りだす。
踊ると言っても、
ぜんまいが巻き戻るのに合わせて、ただ回るだけのこと。
ソファーに腰掛けじっとその動きを見ている。

「この曲って癒される。
 オルゴールの音色って癒されるよね」



俺はオルゴールを手に取り、岬に差し出す。
そして、

「岬、誕生日おめでとう」
と言ってみる。

もちろん岬の誕生日がいつかは知らない。

「ええ、何で知ってるの?」
「と、言ってもいつだか知らないや」
二人の声が被る。
「え、まじかよ。今日?」
「うん。今日」

「驚いた。これやる口実で言ってみたのに」
「うん。僕も驚いたよ。
 もしかしてさっきのケーキも、
 誕生日って知ってたから出してくれたのかなぁ?
 なんて思ったりもして・・・」


「そうか。では、改めて、おめでとう。これプレゼント」
そう言って渡そうとするが、

「でも・・・。これ、 外国のでしょ?
 お父さん、お母さんからのもらい物じゃないの?」
遠慮する岬。

「いや、いいんだ。お前気に入ったんだろ?」

「うん。すごく気に入ったんだけど・・・。でも・・・」

「俺が持っていてもどうせこの部屋で埋もれてるだけだし、
 だったら気に入ったお前に持っててもらったほうが」

「ほんとにいいの?ん~、じゃあ」
ようやく受け取る。
「ありがと。大事にするね」

そして止まってたオルゴールのぜんまいを巻く岬。
メロディーが流れ出す。

「そうだ。ねえ、若林くんもきてよ」
「ん?」
「今晩ね、南葛高校のみんなが僕の誕生日パーティー開いてくれるの。
 石崎くんちで・・・。 
 でも、普通は自分の家に呼んででやるものだよね」

オルゴールがメロディを奏で続ける。

「若林くんが行ったらみんな喜ぶよ。ビッグサプライズだね」
そういって嬉しそうに微笑む。

窓から光が差し込む。
「あ、雨やんだみたいだね」

そういって窓を開ける岬。
「わあ、見て、若林くん。虹が出てるよ」

たく・・・。虹なんて珍しくもないだろ・・・。
そう思いつつも岬の隣で一緒に空を見上げる。

「きれいだね」
と言う岬の横顔を見る。

確かにひさびさにみる虹はきれいだ。
でも岬の方がきれいだ。

オルゴールが奏で続ける音色は幸せを運んでくる足音みたいに聞こえた。





あとがき
すいません。ごめんなさい。
源×岬サイト様の管理人様が多いので書いてみました。
が、書いた本人開き直りきれませんでした。

えっと、麗様のイラストに岬くんと若林くんの相合傘のありましたよね。
岬くんが傘持ってて、でも若林くんほとんど入ってなくって・・・。
そのイラスト見て浮かんだ話です。
そしてドライヤーで岬くんの髪を乾かす若林くん。
向かい合って紅茶を飲む2人。
こんなシーンが浮かんだので無理やり入れてみました。
こんな話ですいませんです。

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